バイオガスプラント事業に関わる基礎資料をまとめています。
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バイオマス
バイオマスとは、「バイオ(bio=生物、生物資源)」と「マス(mass=量)」からなる言葉で、元来生物が作り出した有機物の量を指しますが、生物由来の有機物で一定量を集積でき、エネルギーの原料となることができる物質を意味することが多いです。
新エネルギー関連では再生可能な、生物由来の有機性資源で化石資源を除いたものと定義されており、具体的には家畜排せつ物、食品廃棄物、下水汚泥、古紙、林地残材、作物等が該当します。
バイオマスの種類
バイオガス
バイオガスとは、家畜排せつ物や下水汚泥、生ごみ等を嫌気性発酵(メタン発酵)させることで得られるガスで、主にメタン(約60%)と二酸化炭素(約40%)で構成されています。その他酸素、水素、硫化水素、窒素、アンモニアなどが含まれます。
メタン濃度60%のバイオガスの発熱量(低位発熱量)は5,160kcal/m3で、メタンは可燃性、爆発性のガスであるため、施設での取り扱いには十分な注意を要します。バイオガス中の硫化水素は金属を腐食させる性質があり、人体にも有毒なことから、バイオガスを利用するときは、あらかじめ脱硫処理をする必要があります。
バイオガスの利用方法は、直接燃焼による熱利用とエンジン発電機を利用したコージェネレーションによる熱・電気利用が一般的です。
バイオガスボイラーで燃焼させることで、牛舎や家屋の給湯、暖房、厨房の化石エネルギーの代替として利用できます。また、バイオガス発電機による発電を行い、売電事業を実施している事例もあります。
プロパンガスのように液化するのは容易ではありません。液化には高圧な条件が必要となり、二酸化炭素を除去したほぼ純粋なメタンを、200気圧まで圧縮するための大規模な施設化が必要となります。
バイオガスプラント
平成11年に施行された「家畜排せつ物の管理の適正化及び利用の促進に関する法律(家畜排せつ物法)」により、家畜排せつ物の適切な処理が義務づけられたことも関連し、近年、家畜ふん尿の適正な処理方法として、バイオガスプラントでのメタン発酵処理が注目されています。
プラントは、原料槽、発酵槽、ガス貯留施設、脱硫施設、消化液貯留施設などで構成されます。この他に発電機やボイラーなどを併設することもあります。
酪農現場におけるバイオガスプラントでは、牛舎から排出されたふん尿が、原料槽を経て発酵槽でメタン発酵され、バイオガスと消化液に分けられます。発酵槽で発生したバイオガスはガス貯留施設に一時貯蔵され、ボイラーや発電機等によって熱や電気に変換されて発酵槽の加温、プラント機器の稼働エネルギーとして利用されます。
嫌気性発酵が終わった残渣は「消化液」と呼ばれ、貯留槽において一定期間貯留された後、有機肥料として農地に還元されるなど有効に活用することが出来ます。
- 発酵過程でメタンガスを収集でき、エネルギーとして利用できる。
- 密閉状態で処理されるので処理中にアンモニア、メタンなどのガスが外部に漏れない。
- メタン発酵処理後の消化液は窒素分の減少がなく、量も減少しないが、肥効性の高い液肥として利用できる。
- スラリーの粘度が低下するとともに、臭気も低減され取り扱い性が向上する。
バイオガスプラントシステムの流れ
原料槽
バイオガスプラントにおいて最初に原料を受け入れる場所。原料の投入方法及び投入口は、原料性状、原料輸送車両の違いなど各種条件に適応した設計が必要です。
・原料の輸送、投入
複数農家から原料を収集する大規模な集中型(共同型)バイオガスプラントではアームロール車(コンテナ車)、バキューム車、トラック、ダンプカー等の様々な原料輸送車両を用います。高固形分原料を搬入するアームロール車(コンテナ車)、トラック、ダンプカーではダンプアップによる投入を行います。投入口前に落下させたふん尿をホイールローダーで投入するケースもあります。
スラリー原料を搬入するバキューム車では、カップリング付き投入管に直接ホースを取り付け投入するので外気に悪臭が漏れず衛生的な作業ができます。
・トラブル対策
原料投入の際のトラブルには、敷料や異物による配管の閉塞や、冬期間の凍結などがあり、その対策として投入口を2基設置している施設があります。その他、加温施設、攪拌施設、破砕施設などの前処理施設を付設している例があります。
発酵槽
バイオガスプラントの中で、原料の嫌気性発酵(メタン発酵)が行われる場所です。メタン発酵方法は発酵温度に応じて、中温発酵及び高温発酵に分類されますが、各々にメリット、デメリットが存在し、各プラントメーカーによって採用している発酵方法も異なります。
発酵温度
メタン発酵に適した温度帯として、50〜55℃で行う高温発酵、37℃前後で行う中温発酵があります。高温発酵は中温発酵に比べて有機物の分解速度が速いため、滞留日数が短く、そのために槽の容量を少なくできるのがメリットです。デメリットとして負荷変動やアンモニア阻害に弱く、発酵槽の安定性に課題があり、投入エネルギー量が多い事があげられます。中温発酵は、高温発酵に比べて、負荷変動やアンモニア阻害に強いが、有機物の分解速度が遅いため、発酵槽の容量は大きくなります。
発酵期間と発酵槽の容量
メタン菌の世代交代日数は、高温菌で1〜2日程度、中温菌で3〜4日程度と言われており、原料の滞留日数としては最低でもこの3倍は必要であるとされています。家畜ふん尿処理の発酵期間としては、高温では15〜20日程度、中温では20〜35日程度で運転している例が多いです。
また、発酵槽の材質は主に鋼板とコンクリートが用いられます。
脱硫装置
バイオガス中の硫化水素は、腐食性が高く、バイオガス燃焼時に結露水分と反応し硫酸を生成します。ガス燃焼機器内部で発生した硫酸は、機器を内部から腐食させ、機器の耐用年数を低下させます。安全で円滑なバイオガスの燃焼を行うためには、硫化水素濃度を10ppm以下に脱硫することが目安とされています。
脱硫方法は、酸化鉄や活性炭などの脱硫剤を用いる「乾式脱硫」と、ふん尿中の硫黄酸化細菌の活動による「生物脱硫」があります。生物脱硫は、乾式脱硫と比較して脱硫能力が低いことから乾式脱硫と組み合わせて利用しているケースもあります。
脱硫装置(写真 北海道興部町北興バイオガスプラント)
バイオガスの脱硫方法
- 生物脱硫方式:乳牛ふん尿に由来する硫化硫黄菌の活性により、硫化水素を除去
- 乾式脱硫方式:硫化水素を酸化鉄、活性炭などの触媒に吸着させて硫化水素を除去
- 膜分離方式:硫化水素を吸着膜に吸着させて硫化水素を除去
除湿装置
水分を多く含むバイオガス中では温度差により結露水が発生します。発生した結露水は冬期間にはプラント内で凍結を起こし、配管の亀裂損傷、機器の腐食、運転不具合等を引き起こすことがあります。また発生した結露水はバイオガス中の硫黄と結合し硫酸を生成します。
湿式メタン発酵条件下で発生するバイオガスは、40℃の中温メタン発酵、及び外気温10℃の条件では、含まれる飽和水蒸気から41.8g/m3の結露水が発生する計算となります。
バイオガス中の水分を除去する方法
- バイオガスの温度を低下し、水分を結露させて除去(水冷式チラー、地下配管などを利用)
- バイオガスを乾燥剤に通過させて除去
- バイオガスを膜分離装置に通過させて除去
ガス貯留設備
メタン発酵により発生するバイオガスを貯蔵するためのガス貯留設備で、多くのプラントがガスバックを利用しています。ガスバックの形状は、発酵槽と一体化している形状か、別棟のコンテナ等に内蔵されている形状かの2種類に分類されます。ガス貯留部分は、樹脂、ポリ塩化ビニル、ゴムなどの伸縮性がある材質で作られ、ガス発生量に応じて膨らみます。
ガスバックはバイオガスを貯留しているときは膨張し、発電機を稼働させると収縮し、それを繰り返すため、PVCコーティングなど利用する素材の耐磨耗性が重要です。
バイオガスが想定以上に発生した場合や、停電などのトラブルやメンテナンスなどで発電機が停止する場合で、ガスバック容量以上のガスが発生した場合には、環境に配慮し、直接大気放出するのではなく、バイオガス燃焼装置(ガスフレアー)で燃焼して大気放散しています。なお、メタンガスは、二酸化炭素の21倍の地球温暖化効果があることが知られています。
俵形ガスバック
バイオガス発電機
発生したバイオガスを燃焼させ、電力を発生させる設備。コジェネレーションシステム(Combined Heat and Power, CHP)が用いられる例が多く、電力だけでなく、発生する熱を回収、発酵槽の加温等に消費され、余剰熱は蒸気、温水で、床暖房、農業用施設等のバイオガスプラントに近接した熱需要施設で利用することができます。
北海道鹿追町環境保全センターバイオガスプラントでは、マンゴーのハウス栽培やチョウザメの養殖にバイオガス余剰熱を利用しています。
バイオガス発電機(写真 北海道鹿追町環境保全センター)
左:チョウザメの養殖、右:マンゴーの栽培、北海道鹿追町環境保全センター
殺菌槽
メタン発酵後に消化液を加熱殺菌し、安全な液肥の生産をします。温度と時間はさまざまな条件で行われますが、北海道鹿追町環境保全センターでは55℃、7.5時間以上の加熱処理を行う設計にしています。また海外の例として、デンマークでは70℃・1時間で消化液の熱処理を行っています。
消化液貯留層
メタン発酵後の消化液を貯留するための設備。貯留槽の規模は地域の特徴を考慮して検討する必要があります。特に北海道では、冬期間の12月~4月中旬(約140日)は積雪があり消化液の散布ができません。また、通常よりも冬の寒さが厳しく根雪期間が長い年の場合、11月~4月下旬(約180日)の期間で消化液散布が不可能と想定されます。そのため、貯留槽の容量として、半年間に生産される消化液が貯留可能な容量が必要となります。
また、消化液を散布する圃場や畑地の位置関係に応じて、規模の小さな貯留槽を複数分散させて設置する例もあります。
消化液貯留槽(写真 北海道鹿追町環境保全センター)
再生敷料製造施設
メタン発酵後の消化液を固液分離機で固形分と液分に分離します。固液分離後の固形分は水分が高く敷料には適さないので、堆積づくりのように切り返して好気性発酵で高温にして乾燥したり、バイオガス発電余剰熱を用いて乾燥することで再生敷料を製造しています。好気性発酵で高温処理が進み、嫌気性発酵処理に加えてより衛生的な敷料となります。
左:固液分離機、右:固液分離後の固形分の堆積、写真 北海道江別市小林牧場